これまで,臨場感の高い触覚体験を提供するための技術は,より現実に近い触覚刺激を作り出すことを目標としたアプローチによって発展してきた.しかし,多くの場合,感覚情報の物理的特性を忠実に再現しようとすればするほど,大掛かりで複雑なシステムが必要になるという問題がある.
一方で,錯覚を利用した体験提示技術が現在注目を集めている.ここでいう錯覚とは,錯視に代表されるような物理世界と脳内で再構成された世界が異なるという現象等により,人間の脳の情報処理特性に見られるバイアスのことを意味する.このような脳の仕組みを上手く利用することで実際の感覚刺激を忠実に再現して提示しようという従来のアプローチでは提示の難しい体験を提供することが可能になる.
本発表では,視覚-触覚間の相互作用を利用し錯覚を生じさせることで,実際に触っている形状を変化させずとも,様々な形状の物体に触っている感覚を提示可能な形状提示システムの実演を行う.
講演者プロフィール
伴祐樹
東京大学工学部機械情報工学科を卒業後,現在、同大学大学院情報理工学系研究科廣瀬・谷川研究室に博士課程として在学中.主にvisual hapticsに関する研究に従事.視触覚間相互作用を利用したインタラクティブな形状提示ディスプレイである「MagicPot」やその技術を拡張現実感(AR)システムに応用し,食べ物の見た目の大きさを変化させることで食事量をコントロールする「拡張満腹感」を制作.
鳴海拓志
2006年東京大学工学部システム創成学科卒業.2008年同大学大学院学際情報学府修了.2011年同大学大学院工学系研究科博士課程修了.2011年より同大学情報理工学系研究科知能機械情報学専攻助教,現在に至る.拡張現実感,錯覚を利用した五感インタフェースに関する研究に従事.博士(工学).
共同研究者
鳴海拓志, 谷川智洋, 廣瀬通孝(東京大学)