ゲーム開発資料保存について各開発会社が、その物理的資料が失われる前に、デジタル化を含めて保存に取り組んでいる。こういった資料を社会的に公開し、各企業の文化を伝えることで、開発の資料を資産へと変える企業活動として、ゲーム企業から社会一般に向けて展示や出版なども盛んに取り組まれている。本セッションは、そういった活動の中で課題となる展示会開催のプロセスから著作権など法的問題まで問題を取り上げ、明文化し、既に取り組んでいる、またこれから取り組もうとしている企業の役に立つ解決策を提示するものである。
全体の構成としては、企業から1名、実際に企業内で保存活動をしている立場から課題を提示し、展示、法律の専門家2名からその課題に応える形で講演を行う。
一つ目の展示に関する専門的な講演について以下、内容の解説を行う。近年、ゲーム資料を用いた展示が増加傾向にあるばかりか、ゲーム会社がミュージアムを設立する時代になってきた。ゲーム展示は新作商品のプレゼンテーションだけでなく、資料を後世に保存し活用する時代になってきている。発表者はこれまでに数多くの産学官連携によるゲーム展示を手掛けてきた。例えば2024年に開催した「のこす!いかす!!マンガ・アニメ・ゲーム展」では、失われつつあるレトロなアーケードゲームを守るため「動態保存」に注視した展示を行い、またゲームの関連資料の重要性を示すために株式会社タイトー様が保管する『スペースインベーダー』の開発資料をお借りして展示を行っている。本発表では、産官学連携によるゲーム資料の展示と、国立美術館が進める中間生成物保存推進という発表者の2つの立場から(1)産業界の外側からゲームを展示するメリット(プロモーションとは異なる形での展示実践とその成果)やその課題を整理し(2)日本が誇る文化財としてゲーム資料を保存する意義についてお話しさせて頂く。ゲームの展示会には資料が必要であり、また、一品物の現物ではなく複製物を展示することもあり得る。展示や複製など、資料を活用する様々なシーンで著作権などが働くが、権利者である会社が倒産するなどして、展示にまつわる許諾をそもそも受けようがないケースも考えられる。その際の対応策の1つとして、権利者不明等の場合の裁定制度がある。また、権利者不明「以外」の場合にも使い得る裁定として、未管理公表著作物等の裁定制度が新たに創設された。こういった詳細について専門家とその経験からお話しさせて頂きます。
二つ目の法律に関する専門的な講演について以下、内容の解説を行う。ゲーム会社の外に目を向けると、一般的な資料の保存・活用の場として博物館や図書館が既に存在する。ゲーム関連資料の場合、パッケージの保存は国会図書館などが既に行っているが、新たに国立映画アーカイブでの中間開発資料の保存の動きが出てきている。活用面では、ゲーム会社自身がミュージアムを作る時代に突入したと言える。産官学に渡って、ゲームや開発資料の保存・活用の大きな動きが始まっている。そこで本講演では、「ゲームの展示」「ゲームの博物館」「ゲームの図書館」も視野に入れて、資料の保存・活用のための合法的で利のある取扱いについて解説する。
このように本講演はゲーム産業内外、展示、法律など、ゲーム資料保存・展示・活用に関わる全般的な知見を提供するものである。
講演資料
- CEDEC_2025_0banat.pdf
- CEDEC_2025_SAVE_YMiyake.pdf
- CEDEC_2025_発表資料_松田.pdf
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講演者プロフィール
三宅 陽一郎

京都大学で数学を専攻、大阪大学(物理学修士)、東京大学工学系研究科博士課程を経て博士(工学、東京大学)。2004年よりデジタルゲームにおける人工知能の開発・研究に従事。著書に『人工知能の作り方』『ゲームAI技術入門』『戦略ゲームAI解体新書』、共著に『スクウェア・エニックスのAI』『FINAL FANTASY XVの人工知能』『ゲーム情報学概論』(CEDEC AWARDS 2018 著述賞)など多数。『大規模デジタルゲームにおける人工知能の一般的体系と実装 -FINAL FANTASY XVの実例を基に-』にて2020年度人工知能学会論文賞を受賞。
《講演者からのメッセージ》
ゲーム産業は変革期を迎えつつありますが、そのタイミングこそ、自分の足場を見直す時期でもあります。過去を整理することは未来をデザインすることであり、資料を保存し編纂することは、これまでゲーム産業がたどってきた道のりを示し、未来への展望を開きます。そして、その規模と質が大きいほど、未来へ向けて大きな帆を張ることができます。ゲーム開発資料保存・編纂の試みは、ゲーム産業全体で協力して行うことで、日本のゲーム開発の歴史の全体像を取り戻し、日本のゲーム産業全体が未来への力を得ることができます。本講演をお聴き頂き、展示や保存の課題と解決策を得ることで、それぞれの企業における資料編纂の取り組みを始められる一助となるかと考えております。本講演をお聴き頂き関心を抱いた方は、ぜひ、ご連絡ください。詳細は講演資料に記載いたします。また、ぜひ講演後の質問部屋へお越しください。よろしくお願いいたします。
尾鼻 崇

博士(学術)。一般社団法人日本ゲーム展示協会理事。立命館大学映像学部准教授。ゲームアーカイブや展示、ゲーム音響の研究を専門とする。日本学術振興会特別研究員、立命館大学衣笠総合研究機構研究員、中部大学人文学部准教授、大阪国際工科専門職大学准教授等を経て現職。文化庁メディア芸術連携基盤等整備推進事業においてゲームアーカイブ利活用推進に係る諸事業のコーディネートに従事。著作・分担執筆に『映画音楽からゲームオーディオへ』、『デジタル・ヒューマニティーズ研究とWeb技術』、『文化情報学事典』など。ゲームアーカイブ利活用の一環としてゲーム音楽展「Ludo-Musica」のディレクター、キュレーターを担当。
《講演者からのメッセージ》
ゲームに関係する資料の全てを完璧に残すことは理想ではありますが現実的とはいえません。だからこそ、なにをどのように残すのか、それらの資料をどのように活用できるのかを考える場をたくさん作る必要があります。今回のセッションも、そのような機会の一つになればと思います。
松田 真

早稲田大学教育学部理学科数学専修 卒
弁理士・司書・学芸員
ゲームを含むシステム系の知的財産業務を本業としつつ、ゲームの専門図書館「ゲームギフト図書館」を設立し、館長として運営。
ゲームを150年後の後世まで継承するための非営利一般社団法人である「ゲーム寄贈協会」を設立。
専門図書館協議会 会員
日本マンガ学会 監事
デジタルアーカイブ学会 法制度部会 部会員
JDLA E資格/G検定
【執筆】
日刊紙「特許ニュース」にて「ゲームアーカイブ」シリーズを隔月連載中。
「とある草の根ゲームアーカイブの現状 (デジタルアーカイブ・ベーシックス)」等
【講演】
CEDEC2022「復刻できないあのゲームを、合法的にプレイできるようにするために、今できること」
《講演者からのメッセージ》
ゲームについての展示が増えれば、皆さまがお作りになったゲームを、よりたくさんの方々に、より長く愛してもらえると思います。展示が増えるためのハードルの1つである、著作権などの「権利」の部分について、多少ではありますが、お話させていただけるとうれしいです。