クリエイティブなこだわりを詰め込む時間をより多く生み出すため、自動化できる部分は極力自動化してゆきたい。バンダイナムコスタジオでは、テクニカルサウンドチームが中心となってサウンド開発ワークフローの効率化・自動化を推進しています。このセッションでは、私たちテクニカルサウンドチームの最新の取り組み事例を2つピックアップしてご紹介します。
◆演技違いを考慮したボイス音量自動調整
膨大なボイスファイルの整音作業。ラウドネスを揃えても聴感音量がいまいち合わない、結局は話者にあわせたコンプの微調整が必要、クリエイティブとは言えない作業にクリエイターの貴重な時間を投じていいのか・・・?ラウドネス計測プリフィルタのカスタマイズ、動的なスレッショルド変更、AIによる演技判定など、演技レンジを残したままボイス音量を自動調整できるアルゴリズムの実現を目指しました。
◆仕込みのいらない自動リバーブ・遮蔽・回折システム
レベルの広大化・複雑化、建物や地形の破壊による変化への追従、ユーザ作成レベルへの考慮・・・さまざまシチュエーションに合わせた空間音響を再現するための仕掛けを個別に仕込む手法ではとても追いつかない時代における現実的なソリューションとして、空間計測の工夫や専用リバーブを含む「仕込みのいらない」自動リバーブ+空間音響表現システム(遮蔽・回折)の開発に取り組みました。
講演者プロフィール
髙橋 みなも

1995年ナムコ入社。アーケード・モバイル・コンシューマなど幅広いジャンルの製品において主にアセット実装設計やワークフロー構築などサウンドクリエイターの技術サポート中心に携わる。現在はオーディオテクニカルディレクターとして、オーディオ技術開発および活用推進に注力中。
《講演者からのメッセージ》
非の打ちどころのない完璧な自動化なんてあり得ないよねと思いつつ、あと少し、もう少し、このぐらいは何とかなるんじゃないか、お、意外と行けんじゃね?・・・と、テクニカルサウンドチームがガチで取り組んだ「どこまで自動化できるかチャレンジ」の現在地について、ちょっと濃いめのメンバーでゆるりとお話できればと思います。
中西 哲一

1996年ナムコ入社。エースコンバットシリーズのサウンドディレクターやリッジレーサーシリーズを中心に数多くのプロジェクトに携わる。作曲、効果音、ツール開発、オーディオプログラムなどサウンド開発に幅広く精通。現在はグループリーダーとして、複数分野の組織マネジメントとオーディオテクニカルディレクターとして技術開発・活用を推進。元CEDEC運営委員(2011-2021)
《講演者からのメッセージ》
サウンド開発は市販ツール・ゲームエンジン・オーディオミドルウェアだけでカバーしきれない課題もあり、その解決をリードするテクニカルサウンドデザイナーの重要性はますます高まっています。法則に準じた一定品質を満たす作業は省力化し、感性を活かしたクリエイティブな作業時間を増やしたいですよね。「膨大な音声アセットの聴感音量調整はプラグインバッチ処理でキャラ別パラメータ設定する作業すらメンドクサイよね」、「感性で空間残響設定するの苦行だよね。回折用のポータルとか置きたくないよね。」、「複雑なマップや膨大なレベル構成、知らぬ間のオブジェクト修正でも優しい気持ちでいたいよね。」・・・そんなたわごとに、本気で取り組んでみた成果発表です。楽するために苦労する・・・クリエイティブなズボラ最高です。
木幡 周治

電子楽器開発会社でソフトウェア開発、ゲーム会社でオーディオプログラマーとしての業務を経験し、現在は独立してテクニカルオーディオデザイナーとして活動中
◆ 講演など (一部)
[CEDEC2017] 実戦的なゲームのための音響空間表現 ―NieR:Automataにおける事例―
[GDC2018] An Interactive Sound Dystopia: Real-Time Audio Processing in 'NieR:Automata’
[CEDEC2022] テクニカルオーディオデザイナーの世界
《講演者からのメッセージ》
自動リバーブ・遮蔽・回折システムの開発についてお手伝いさせていただいています!
自動化といっても完全なシミュレーションはいろいろと難しいので、どういうやり方をすればそれっぽくなるのかと頭(と耳?)を捻る毎日です……。
また、単に効率化というだけでなく自動化ならではの質感向上にもチャレンジできると楽しいかなと思います!