北米のゲーム開発者コミュニティで,近年もっとも成長しているのがゲームUXコミュニティです.この背景には世界的なゲーム開発者教育の高度化があります.従来のゲームデザイン教育(古今東西のゲームデザイン要素を集成・分類し,共通言語として学ぶ)に加えて,人類がこれまで獲得してきた脳機能を応用してユーザー(プレイヤーやオーディエンス)の心を動かす研究が進んでいます.そしてゲームUXコミュニティの成長は,ゲームUXが研究教育の段階から組織や職種を超えて共有される段階へと進んでいることを示しています.
本講演では,講演者が国内大学で使ってきたゲームデザイン教科書および演者が監訳した『はじめて学ぶ ビデオゲームの心理学』をもとに,緊張と弛緩,記憶や期待値,意識と潜在意識,自然現象のモデル化,ワーキングメモリといった人類共通の機能をゲーム開発者がどのように活用してきたかを紹介します.
講演者プロフィール
山根 信二
ゲーム開発者を対象とした国際NPO、国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)の設立理事およびアカデミック専門部会幹事.過去に所属先を変えながらCEDEC2009, 2010, 2015で発表し,今年度は東京国際工科専門職大学デジタルエンタテインメント学科所属.
本セッションに関連する出版物としては,情報処理学会技術報告「ゲーム開発はICD-11をめぐる分断を乗り越えることができるか」(2021),セリア・ホデント著『はじめて学ぶビデオゲームの心理学』(2022)所収の日本語版解説がある.
《講演者からのメッセージ》
ゲーム産業は,心理学が誕生する以前から人間の心を動かす手法を発明してきました.その最新事例であるゲームUXを例として,ゲームデベロッパーと高等教育機関とが組織の壁を超えたゲーム開発者コミュニティを形成してきた歩みをたどります.