「メタAI」とはゲーム全体を制御する人工知能です。ゲーム内に身体を持たず、ゲームの全体的状況を監視し、キャラクターへの命令や配置、オブジェクトの変化を通じてゲーム世界に変化を及ぼします。「メタAI」は、古典的メタAI(1980年代~)と、現代的メタAI(2007年~)に分類されますが、古典的メタAIはユーザーのスキルを判定して、敵の数や種類によってゲームの難易度を受動的に変化させる技術です。一方で、現代的メタAIは、より積極的に、敵の出現位置、数、種類、自動生成技術を用いて、ゲームを積極的に変化させて行く技術です。メタAIはいわばゲームデザイナーの知能を模した人工知能であり、リアルタイムにユーザーのスキルや行動に応じてゲームそのものを変化させて行きます。本セッションではいくつかの実例を示しながら、メタAIがどのようにゲームデザインを動的に変化させて行くかを解説いたします。また今回は、この「メタAI」の技術とノウハウと歴史を解説して行きます。またオリジナルのデモを通して、メタAIの作り方、ノウハウ、使い所をお伝えしたいと思います。メタAIはやがて作家性を持ち、そのシーンに起承転結をもたらす人工知能として活躍します。
講演者プロフィール
三宅 陽一郎
経歴:
京都大学で数学を専攻、大阪大学(物理学修士)、東京大学工学系研究科博士課程を経てデジタルゲームにおける人工知能の開発・研究に従事。IGDA日本ゲームAI専門部会設立(チェア)、DiGRA JAPAN 理事、芸術科学会理事、人工知能学会編集委員。共著『デジタルゲームの教科書』『デジタルゲームの技術』『絵でわかる人工知能』(SBCr)、著書『人工知能のための哲学塾』(BNN新社)『人工知能の作り方』(技術評論社)『はじめてのゲームAI』(WEB+DB PRESS Vol.68)翻訳監修『ゲームプログラマのためのC++』『C++のためのAPIデザイン』(SBCr)最新の論文は『大規模ゲームにおける人工知能─ファイナルファンタジーⅩⅤの実例をもとに─』(人工知能学会誌 2017年、AI書庫にて公開)
《講演者からのメッセージ》
メタAIはこれから発展して行く分野であり、またゲームAIの中心となる分野です。80年代の難易度調整、00年代のレベルデザイン調整から、10年代には起承転結を含んだドラマ生成がメインテーマとなります。AIとゲームデザインの融合ポイントについて解説いたします。また人工知能学会とのコラボセッション「人工知能と対話システム 」を担当しております。キャラクターとの自然な対話は、本年、もっとも需要の高いゲーム産業における人工知能案件です。日本を代表するエキスパートである東中先生をお呼びしており、皆様にとってとても重要なセッションとなるかと思います。ぜひ、お越しください。
水野 勇太
経歴:
大手ゲーム会社で、ステルスアクションゲームの敵AIプログラマとして、ゲーム業界のキャリアをスタート。シリーズ作の敵AIプログラマ、スマートフォンタイトルのリードプログラマなど4年のプログラム経験ののち、ディレクターへ転身。スマートフォンタイトルのディレクター、プランナーとして6年間ゲームデザインの経験を積む。
2017年4月、ゲームAI開発に本格的に取り組める環境を求めて、スクウェア・エニックスへ転職。現在は三宅と共に、さらに進歩したメタAIの実現、ゲームの面白さをAIでコントロールすることを目指し、AIテクニカルデザイナーとして業務に取り組んでいる。
《講演者からのメッセージ》
メタAIは今、時代に求められています。
プロシージャルに生成されるレベルにおいて、事前に敵やイベントを最適に配置することはできません。EASY/NORMAL/HARDなどおおざっぱな分類では、もう少し難しいバランスを遊んでみたいユーザーを満足させることはできません。
メタAIであれば、リアルタイムにレベルを認識し、最適なバランスを組み立てることができます。また、リリース後のゲームにおいても、バランスを自動で最適化し、ユーザーへのおもてなしとしての体験を提供できます。
ゲームデザインの革新となりうるメタAI、その可能性や未来について少しでも感じていただければ幸いです。