※このCEDECラボAIセッションはAI(1)とAI(2)の2セッションが3つの講演と最後にパネルから構成されます。 AI分野(1)では伊藤、西野の講演、AI分野(2)では保木講演および、講演者3名に三宅(株式会社フロム・ソフトウェア)を加えた4名による産と学から見た「ゲームとAI」についてパネルディスカッションを行います。
ゲームをプレーする人間にとって、対戦相手となるコンピュータの思考ルーティンや実時間で動くキャラクターの行動アルゴリズムは、重要なファクターである。人間は、一定の癖のある行動をとったり、単調な行動を繰り返したりする思考ルーティンや行動アルゴリズムには非常に敏感で、すぐにそれを見破って、興味を喪失させてしまう傾向がある。人間に行動を読ませないようにするために、安易に乱数を使って行動をさせるだけでは理知的な行動にはならないので、すぐに見破られ、逆に底の浅いゲームと思われてしまいかねない。人間にとって適度に手強く、人間的な思考を行っていると思わせるにはどうしたらよいだろうか?本講演では、まず、ゲームの理論的な分類を行った上で、人間的な思考アルゴリズムとは何かについて概観する。そして、コンピュータ将棋の分野からBonanzaの開発者である保木邦仁氏と、ロボカップサッカーシミュレーションから天才プログラマーの西野順二氏をお招きして、それぞれの先端的手法についてご講演いただく。これらの講演を踏まえて、人間にとって楽しい対戦相手となりうる思考ルーティンプログラミングについてパネル討論を通して考察していく。
保木講演概要
「人知を超える」これは計算科学における大きな目標の一つである。これまでに、コンピュータに人間のような知能を発現させる試みが盛んに行われてきた。特に、チェスを指すプログラムは1960年代のコンピュータ技術黎明期から真剣に研究されている。
チェス・オセロ等の思考プログラムは、単純な局面評価関数を用いてMinimax 探索の結果を得ることにより成功を収めた。この場合、評価関数は主、チェスは盤上の駒の数(駒割り)、オセロは合法手の数や隅の石数を考慮する。他にも考慮する局面の特徴は沢山あるが、それらは主な特徴に対する小さな補正として働く。
一方、将棋の場合、簡単な関数で局面の良し悪しを判断することは難しい。局面評価に大きな影響を与えるパラメタの数が多くなるにつれ、人の手による調整は困難になる。機械学習による自動調整が不可欠である。
本講演では、最適制御法の枠組みに沿って、この巨大な特徴ベクトルの自動調整を行なう手法を紹介する。これは、チェスやその変種のゲームとしては"実用に耐え、役に立つ"初めての機械学習の手法である。
講演者プロフィール
保木 邦仁
[講演]
ゲーム木探索の最適制御―将棋における局面評価の機械学習―,保木邦仁,ソフトウエアジャパン2008―仮想社会が何をもたらすか―,東京ステーションコンファレンス・サピアタワー,2008年1月
将棋における局面評価の機械学習~探索結果の最適制御~,保木邦仁,第10回情報論的学習理論ワークショップ(IBIS 2007),東京工業大学すずかけ台キャンパス,2007年11月
JISAコンベンション2007~勝利への変革~,松原仁,保木邦仁,勝又清和,ANAインターコンチネンタルホテル東京,2007年10月
[著書]
ボナンザVS勝負脳 -最強将棋ソフトは人間を超えるか,保木邦仁,渡辺明,角川ONEテーマ21,2007年8月
伊藤 毅志
1988年 北海道大学文学部行動科学科卒業
1994年 名古屋大学大学院工学研究科情報工学専攻博士課程修了(工学博士)
1994年 電気通信大学情報工学科助手
2005年より デジタルハリウッド大学客員教授(兼任)
2007年 電気通信大学情報工学科助教
著書には、「先を読む頭脳」、羽生善治、伊藤毅志、松原仁(共著)、新潮社(2006)など
招待講演は、第7回情報オリンピック表彰式記念講演、「コンピュータに思考ゲームをさせる試み ~コンピュータ将棋・囲碁の最前線~」(2008).など
西野 順二
未踏ソフトウェア天才プログラマー
ロボカップサッカーシミュレーションリーグに長年参加し、
国際大会Organizing Comittee、日本大会実行委員などを務める。
サッカーロボットなどを対象にファジィ理論を応用した知的システムについての研究、多人数ゲームやマルチエージェントシステムに関する研究を行う。
●受講者へのメッセージ
未踏ソフトウェアでは、このへんに来たらこんなことをする、という「このへんファジィ推論」を利用して、中高生でも直感的にロボットサッカープレイヤを作れるシステムをOZEDを開発しました。 人間が自然に行っている、あいまいな状況判断をファジィ理論で処理するシステムがベースです。複雑さを増すゲームのなかで、コンピュータキャラクタにやわらかい判断をさせるとき役立つ手法です。
三宅 陽一郎
1975年、兵庫県生まれ。京都大学で数学を専攻、大阪大学で物理学(物理学修士)、東京大学工学系研究科博士課程(単位取得満期退学)。2004年、株式会社フロム・ソフトウエア入社。ゲームにおける本格的な人工知能技術の応用を目指す。2005年、クロムハウンズ(Xbox360, ?SEGA Corporation / FromNetworks, Inc. / FromSoftware, Inc.)の製作に、AIの設計として参加。 2006年、CEDEC2006 において「クロムハウンズにおける人工知能開発から見るゲームAIの展望 」を講演。2007年、AOGC2007 において「人工知能が拓くオンラインゲームの可能性」を講演。2006年~2007年にはIGDA日本、ゲームAI連続セミナー「ゲームAIを読み解く」全6回の講師を務める。KGC(Korea Game Conference)2007、CEDEC2007 招待講演。デジタルコンテンツシンポジウム2008、「エージェント・アーキテクチャに基づくキャラクターAIの実装」の発表で船井賞受賞。デジタルコンテンツ協会「デジタルコンテンツ制作の先端技術応用に関する調査委員会」委員、DiGRA JAPAN研究委員、情報処理学会エンタテインメントコンピューティング研究会運営委員、人工知能学会会員。IGDA日本メンバー、SIG-BG(ボードゲーム専門部会)管理者。ボードゲームサークル「笹塚ゲームクラブ」代表。最近の論文「ディジタルゲームにおける人工知能技術の応用」(人工知能学会誌 Vol.23 No.1 2008/1)。ブログ「y_miyakeのゲームAI千夜一夜」(IGDA日本)。CEDEC20008では、人工知能分野とプロシージャル分野(手続き型アルゴリズム、自動生成)をコーディネートします。 Enjoy CEDEC2008!
●受講者へのメッセージ
この3年間、人工知能技術、プロシージャル技術(自動生成技術)によって、ゲーム開発者が楽しくゲームを開発を行うことが出来る開発・情報環境の構築を目指して努力して参りました。開発効率化の時代において、この2つの技術は、新しい混沌をゲーム開発にもたらすと同時に、閉塞するディジタルゲームのフィールドに新しくみずみずしい可能性をもたらすものでもあります。20世紀に絵画が写実や肖像の分野から絵画自身の生命を持つ抽象画へと進んだように、ディジタルゲームは、この2つに代表される技術によって、それ自身が内から沸き起こる力動を持つことで命を持ち始める段階へと、僅かに、そしてゆっくりではありますが、移行しつつあります。2008年という年は、ディジタルゲームの歴史においては、目立たないとは言え、大きな開発の流れのターニングポイントとなる年でもあります。3Dゲーム空間を探求するのに実に10年以上の年月が必要であったように、人工知能技術、プロシージャル技術のフィールドも、ゲーム開発者にさらに今後10年の仕事を与えることでしょう。CEDEC2008においては、そのゲーム・フィールドのプレイヤーである開発者の皆様、この分野の潤沢な可能性をゲーム空間に導く皆様に、必要な情報とビジョンを提供することが必要であると考え、講演者の皆様のお力とと委員の皆様の多大な御協力によって、人工知能分野とプロシージャル分野(手続き型アルゴリズム、自動生成)の一連の講演が企画されています。人工知能分野では、産業側としてAI Day 5講演、アカデミックとしては、CEDECラボ2講演、プロシージャル分野では、産業2講演、CEDECラボ1講演が準備されております。参加者の皆様が諸先生の講演を集中して聴講され、凝縮した情報から新しい発想を得られることを願います(もちろん、この分野についてはこれ以外にも講演がございます)。講演は多く技術が軸となっておりますが、ゲーム開発において、特に日本のゲーム開発においては、企画と技術者の合意によって、初めて新しい技術の導入が可能です。是非、技術者と企画者の対話の出発点としてご活用頂ければと思います。CEDECラボ、AI Day は、(たとえ自分自身の手でなくても)来年以降も発展させて行きたいと考えております。是非、皆様のご参加とご意見のフィードバックによって育てて頂ければと思います。ゲーム開発には1年~3年以上の時間がかかります。CEDEC2008の成果が数年後のゲームタイトルとして結実し、皆様の手でディジタルゲームを進歩させられること願います。