現在大作ゲームでは海外市場を前提とした企画・開発が必須で、特に欧州市場へのリーチが、多くのパブリッシャーで課題となっています。そのためには日本語版の開発パイプラインにローカライズプロセスを統合し、いかに効率的な開発体制を構築するかが重要です。これらを担当するのが、パブリッシャーのローカライズプロデューサーであり、ディベロッパーの海外版開発者であり、翻訳実務を担当するローカライズベンダーです。
しかし、日本ではほとんどの場合、日本語版開発者にはローカライズの実務が見えにくく、日本語版とローカライズ版の開発チームで交流が少ないために、短期間で高品質な海外版の開発を行うことが難しい状況にあります。さらに英語版もさることながら、実際に翻訳された各国語版の品質をどのように担保し、次回作につなげるかなどは、まだまだ課題点が多いのが事実です。なにより日本語版開発スタッフに、こうした問題意識が少ないのが現状ではないでしょうか。
そこで本セッションでは、IGDA日本で昨年からスタートしたSIG-Glocalizationの世話人の一人で、自身もローカライズベンダーとして翻訳実務を担当するエミリオ・ガジェコ氏をモデレーターとして、各社のローカライズ実務担当者によるパネルディスカッションを開催します。人選もイギリス人、フランス人、ドイツ人、イタリア人、スペイン人と国籍を分散させ、英語版以外のローカライズにも積極的に光を当てる内容とします。また、当然ながらパネリストは全て日本語が話せる外国人を用意します。
主なトピックは「各国の文化に基づいた固有名詞の変換」「日本人には気づきにくい、ネイティブから見た違和感の残る翻訳例」「翻訳時に陥りやすい問題点と、その対処法」「各言語圏の市場の現状、ユーザーニーズ」「各言語の翻訳品質の担保方法」「求められるツール、ミドルウェア」などです。単に現状の問題点を羅列するだけではなく、それらをオリジナル版開発チームとどのように協力して解決したか、また解決できるかといった、開発現場で役立つ実践的な内容やビジョンを投げかけられるものにします。
ゲームの売り上げ見込みを最大限にするためには、世界同時発売が不可欠で、そのためにはローカライズスタッフとオリジナル版開発チームの協力体制が必要で、そのためには開発現場全体の意識改革が必要です。そのために何が重要か、外国人ローカライズスタッフの生の声を、できるだけ多くの日本の開発者に聞いてもらいたい。その上でもパネルディスカッションという形式が最適と考えています。
参考URL
【CEDEC 2009】「日本から海外へ!-今日から役立つローカライズ技法-」
http://www.inside-games.jp/article/2009/09/04/37496.html
講演者プロフィール
エミリオ・ガジェゴ サンブラノ
スペイン・グラナダ大学翻訳通訳学部を経て、上智大学日本語日本文化学科言語学専攻を卒業し大学院に進学。翻訳技術・品質評価について様々な論文を執筆し、修士課程を修了。以後、日本のエンターテインメント文化の海外紹介に励み、漫画・アニメの海外版の制作に打ち込む。担当タイトルは「はだしのげん」や「タッチ!」、手塚治虫の作品がある。2004年以降ゲーム業界に飛び込み、任天堂にて「ゼルダトワイライトプリンセス」や「スーパーマリオギャラクシー」などを担当。2007年以降、株式会社バースデーソング音楽出版Windwardゲームローカライズ事業部でプロデューサーとして日本ローカライズ事情の改善に取り組む。
ヘンペル グナ
ドイツ出身として2004年来日、東京の上智大学で2007年に社会学の修士として卒業。
2009年まで外資系の大手会社での営業の仕事の後、フリーランスで自営業。和独のゲームローカライズ、翻訳チェック意外、幅広い翻訳、通訳やマーケティング関係のプロジェクト。2009年からアイディアの商品化などのiPhone関連のコンサルト案件も増大。