本セッションでは、3人の社会科学系の研究者が、コンピュータ・ゲームに関する最新の社会科学研究の成果を報告し、産業サイドと研究者側にとって、相互に利益となるような研究の道を探りたいたい。まず井上からゲームに関する社会科学系研究の動向および基本的性質について要約し、その後、小山、井上、七邊の個別の研究内容について15分づつ程度で紹介を行う。各人の報告内容は下記の通りである。
(1)「社会科学研究とゲーム」(井上明人) 複数均衡、ネットワーク外部性、社会構造など、社会科学においてコンピュータ・ゲームを捉えるために役立ちそうな概念を簡単に紹介する。
(2)「デジタルコンバージェンスとゲーム産業」(小山友介):コンピュータの性能上昇とメディアのデジタル化で,さまざまな専用メディア(ガジェット)が汎用機の利用へ収斂すること」をデジタルコンバージェンスという.デジタルコンバージェンスはワープロ専用機やPDAを飲み込み,デジカメや音楽プレイヤーからライトユーザーを奪い去った.今後はビデオデッキや電話機,出版なども飲み込んでいくことが容易に予想される.
過去をさかのぼると,ゲーム専用機は普及台数の多さと普及台数を元にした様々なビジネスの可能性から,家電(AV)やPC企業から何度も進出を企てられた経験がある.ソニーは3世代にわたって据え置き型ゲーム機で大きなシェアを得ているが,その大きな普及台数をゲームビジネス以外に生かせない状態である.現世代では,PC・アーケードのゲームが弱体化し,家庭用ゲーム機が唯一の市場となりつつあるが,PCネットゲームや携帯電話(特にiPhone)でのゲームの拡大や新興国市場を考えたとき,早ければ次世代,遅くとも次の次の世代ではゲーム機がデジタルコンバージェンスの波と本気で向かう合う必要が出てくるだろう.本発表ではデジタルコンバージェンスの状況を確認した後,ゲームビジネスの未来についてフロアの人も含めて忌憚ない議論を行うことを希望する.
(3)「ゲームを消費するユーザーのネットワーク」(井上明人):コンピュータ・ゲームの消費において、「ユーザー間ネットワーク」という観点からの説明を行う。凝集度の高いコアなユーザーのクラスターと、凝集度の低いコアなユーザーたちのネットワーク上の効果を考えた場合、凝集度の高いユーザー・クラスターでは、エヴァンジェリストとしての効果が薄い。一方で、凝集度の低いユーザー・クラスターでは、エヴァンジェリストとしての効果が期待できる。しかし、凝集度の低いコア・ユーザー・クラスターは持続可能なものかどうか、については疑問が残る。このモデルによって、2000年代後半に起きた家庭用ゲーム市場の動向を説明する仮説を立てることができる。
(4)日本型「ゲーム開発・流通の個人化」の動向(七邊信重): 「Game Developers Conference」における「Independent Games Festival」や、iPhone、Google Android、XBOX LIVE Indie Gamesの活況に見られるとおり、「ゲーム開発・流通の個人化」は、世界のゲーム開発シーンの動向を示すキーワードとなっているが、その日本的な現れ方=「同人ゲーム」については、日本のゲーム産業やゲーム研究において、十分な認識が共有されてきたとは言いがたい。本発表では、フランスの社会学者、ピエール・プルデューの、文化生産の界に関する分析を主に利用し、「東方Project」や「ひぐらしのなく頃に」のような、独創的なゲームが産み出されている、日本の「同人ゲーム界」の社会的・文化的メカニズム、とりわけ、行為者の利害-関心や表現、流通の特殊性と、これらが日本のゲーム、コンテンツ開発に与えてきた/与えている影響について、社会学的な分析を提出する。
小規模開発と大規模開発が両輪となって発展を遂げてきた欧米のゲーム開発シーンに対し、日本のゲーム開発シーンはいかなる状況にあるか。関心のある方との情報交換を期待したい。
講演者プロフィール
井上 明人
国際大学GLOCOM研究員/助教。2005年慶應義塾大学大学院 政策メディア研究科修了、 2006年より、現職。論文に「遊びとゲームをめぐる試論 ―たとえば、にらめっこはコンピュータ・ゲームになるだろうか」「ゲーム市場の生態系とネットワーク構造の変化をどう捉えるか」など。
《講師からのメッセージ》
社会科学の知見はゲームの産業を分析的に考える上でのヒントになることはもちろんのこと、ウィル・ライトが『シムシティ』を作り上げる上でヒントにしたのも社会科学の知見です。
ネタを拾いにくるつもりで、聞いていただければ幸いです。
小山 友介
1973年生まれ.2001年 京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了.博士(経済学).日本学術振興会特別研究員(PD),東京工業大学助教を経て,現在,芝浦工業大学システム理工学部准教授.専門は理論経済学(経済に関するエージェントシミュレーション)とコンテンツ産業調査.代表著作:『コンテンツ産業論』(出口,田中,小山編著,東京大学出版会,2009年),『人工市場で学ぶマーケットメカニズム―U‐Mart経済学編』(塩沢,中島,松井,小山,谷口,橋本著,共立出版,2006年),『デジタルゲームの教科書』(1~3章,ソフトバンククリエイティブ,2010年).
《講師からのメッセージ》
フロアから気軽に質問やコメントが言えるセッションにしたいと思います.よろしくお願いします.
七邊 信重
1976年生まれ。東京工業大学エージェントベース社会システム科学研究センター特任講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)同人・インディーゲーム部会世話人。コンテンツ文化史学会事務局長。日本デジタルゲーム学会(DiGRA JAPAN)編集委員。2006年、早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程(社会学専攻)単位取得退学。東京大学大学院情報学環特任研究員、同特任助教を経て現職。専門は文化・情報社会学と社会調査法。論文に、「持続的な小規模ゲーム開発の可能性―同人・インディーズゲーム制作の質的データ分析」(『デジタルゲーム学研究』第3巻第2号)など。