HTN(階層型タスクネットワーク、Hierarchical Task Network)システムはゲームにおいて長期的な行動を実現するAIシステムの一つです。しかし、HTNシステムは偶発的な変化や敵対的なエージェントの行動を扱う仕組みがありません。リアルタイムに状況が変化するような環境下でHTNシステムを利用する場合、従来のゲームではプランを作り直す「リプランニング」の頻度を上げることで、多様な状況変化に対応してきました。しかし過度のリプランニングは、AIの長期的思考を壊してしまう原因となりました。そのため私達はHTNシステムをよりリアルタイムゲームに適した形に発展させた「ART-HTN」(Advanced Real-Time HTN)を開発しました。主な改善点は以下の3点です。
(1) マルチシナリオ・プランナ:考えられる状況をシミュレートし複数の計画を同時に立てることで敵対的なエージェントの行動を考慮する。
(2) Lazy-Evaluation:実行時にタスクを評価、分解することでその状況に適した行動を行う。
(3)Executorの導入:計画を立てるPlannerの他に計画の実行を管理するExecutorを導入し役割を分けることで柔軟な計画の実行を実現する。
本セッションではHTNシステムがはらむ問題点に向き合い、様々な状況に対応できるように改良したこれらの手法について説明します。
講演者プロフィール
森 寅嘉
2019年、公立はこだて未来大学大学院修了。修士。同年より株式会社スクウェア・エニックスにてHierarchical Task Networkを用いたAI, プロシージャルアニメーション等AIとアニメーションを題材とした研究開発に従事。
《講演者からのメッセージ》
今回のセッションではプランニング技術として用いられているHTNをよりリアルタイムの状況下に対応させたART-HTNについてお話します。
これまでのプランニング技術がどのような問題を抱えていたのか。それに対してART-HTNではどのように解決を試みたのかをご紹介いたします。
並木幸介
2008年よりゲーム業界に関わり、2012年株式会社スクウェア・エニックスに入社。
「FINAL FANTASY XV」「KINGDOM HEARTS III」「FINAL FANTASY VII REMAKE」などのタイトル開発にAIエンジニア、QA自動化AIエンジニアとして携わる。現在はテクノロジー推進部にて次世代AIの研究開発に従事している。
《講演者からのメッセージ》
次世代のゲームAIを支える有望な分野としてプランニング技術がありますが、実際にゲームに応用するのは難しいポイントが今までありました。今日は、私たちがリアルタイムゲームに向けて改善した新しいプランニング技術を紹介いたします。AIをより賢く動かしたい方、ぜひご視聴ください。