理化学研究所・革新知能統合研究センター(AIP)の人とAIのコミュニケーション(HAIC)チームは、人の人工知能が言語・身振りを通じたコミュニケーションのあり方を、実際にさまざまな実験を通して研究して来ました。「会話情報学」「会話エージェント技術」と呼ばれるこの分野のアカデミックな知見を、ゲーム開発の現場に橋渡しするために、理論と実験的実例(デモ)を通じてご紹介いたします。第一に会話の前提となるコモングラウンド(背景、状況)の構成です。これは会話がそもそも成り立つための社会的状況がいかなるものであるかを探求した結果です。グラフィックレコーディングから実際の人間の会話から抽出します。第二に会話エージェントを研究するためのプラットフォームです。様々なエージェントを迅速に作成できる環境があります。これは産業との共同研究にも活用できます。具体的には、FACS表現を中間表現として用いたデータフロー型の顔表情認識・合成システムをFACSvatarを紹介します。こちらは実際のゲーム開発にも直ちに応用にして頂けます。第三の知見は、非言語情報、音律・ゼスチャアと言った言語にならない情報によるコミュニケーションです。この情報を用いることで、より自然な人工知能と人間の会話を実現することができます。今回は、これらの知識をわかりやすくゲーム開発者に多数のデモを用いつつご説明いたします。
講演者プロフィール
三宅 陽一郎
京都大学で数学を専攻、大阪大学大学院理学研究科物理学修士課程、東京大学大学院工学系研究科博士課程を経て、人工知能研究の道へ。ゲームAI開発者としてデジタルゲームにおける人工知能技術の発展に従事。国際ゲーム開発者協会日本ゲームAI専門部会チェア、日本デジタルゲーム学会理事、芸術科学会理事、人工知能学会編集委員。著書に『人工知能のための哲学塾』『人工知能の作り方』、共著に『絵でわかる人工知能』『高校生のための ゲームで考える人工知能』『ゲーム情報学概論』(コロナ社)最新の論文は『大規模ゲームにおける人工知能─ファイナルファンタジーⅩⅤの実例をもとに─』(人工知能学会誌 2017年、AI書庫にて公開)
《講演者からのメッセージ》
キャラクターとプレイヤーの関係はメッセージだけでしょうか。身振りや言葉を超えた状況に埋め込まれたコミュニケーションが存在するのではないでしょうか?言葉と身振り、理化学研究所・革新知能統合研究センター(AIP)の人とAIのコミュニケーション(HAIC)チームで研究が進められている人とキャラクターの間のコミュニケーションの最先端の研究をご紹介いたします。アカデミックな内容を平易に解説いたします。ゲーム開発におけるヒントや示唆を得られるはずです。気軽にご参加ください。
西田 豊明
京都大学助手,助教授を経て,奈良先端科学技術大学院大学教授,東京大学教授を経て,現在,京都大学大学院情報学研究科教授.人工知能とインタラクションの研究に従事.会話情報学を提唱.理化学研究所AIPで「人とAIのコミュニケーション」チームリーダー,総務省「AIネットワーク社会推進会議」構成員.主な著書:『自然言語処理入門』オーム社 (1988年),『定性推論の諸相』朝倉書店 (1993年),『人工知能の基礎』丸善 (1999年),『インタラクションの理解とデザイン』岩波書店(2000年), “Conversational Informatics”, Springer(2014年,共著)など.
《講演者からのメッセージ》
会話という,人にとって当たり前にできることがAIにもできるようになれば,世界が広がります.どんなアプローチをしてきたかを紹介し,これからどんな方向があるかについて論じます.
中野有紀子
東京大学大学院教育学研究科修士課程修了.MIT Media Arts & Sciences修士課程修了.JST社会技術研究開発センター専門研究員,東京農工大学大学院工学府特任准教授を経て,現在,成蹊大学理工学部情報科学科教授.理化学研究所AIP客員研究員.人との言語・非言語コミュニケーションが可能な会話エージェントの研究に従事.共著に「対話システム (自然言語処理シリーズ)」コロナ社,「人と共生するエージェント」東京電機大学出版,"Eye Gaze in Intelligent User Interfaces-Gaze-based Analyses, Models and Applications" Springer 等.
《講演者からのメッセージ》
言語だけでなく,非言語情報も対象とするのがマルチモーダルインタラクションの研究です.コミュニケーションをマルチモーダルにとらえると何がわかるのか,またそれを実装するとどのようなAIが実現するのかを論じます.