前庭電気刺激(GVS: Galvanic Vestibular Stimulation)は微弱な電流を内耳の奥の前庭に印加する事で,加速度感覚や角速度を知覚させる技術である.GVSは軽量•安価な電気刺激回路のみでこれらの感覚を惹起する事が可能であるため,家庭用ゲーム機などに応用して臨場感を高めるシステム等に利用する事が期待されている.
従来のGVSによって提示できる前庭感覚は左右方向への微弱なもののみであったが,我々の研究によって左右方向,前後方向,yaw回転方向への前庭感覚の惹起が可能な4極GVSの開発に成功した.さらに,前庭の電流に対する時間的な応答を利用して安全な電流値でも強力な前庭感覚が惹起出来る往復電流刺激を開発した.
また,これらの研究成果を用いたアプリケーションとしてHMDを利用した一人称視点映像に前庭電気刺激を併用する事で従来よりもリアリティの高いシステムの一例を示す.
講演者プロフィール
安藤 英由樹
1998 年愛知工業大学大学院工学系研究科修士課程修了.同年同研究科博士課程進学.1999年理化学研究所BMC JRA 配属,2000年科学技術振興事業団「協調と制御」領域グループメンバーとして東京大学情報学環研究員,2004年NTT コミュニケーション科学基礎研究所RA,2007 年同研究所RS,2008年大阪大学大学院情報科学研究科准教授,現在に至る.感覚伝送技術,感覚運動情報工学,VRに関する研究に従事.博士(情報理工学).
《講演者からのメッセージ》
モーションチェア等を使わずともHMDと同じ様に頭部に装着するだけで,加速度感の体験ができる前庭電気刺激に関する解説とデモを行います.
青山一真
2012 年岡山県立大学情報工学部スポーツシステム工学科卒 2014
年大阪大学大学院情報科学研究科博士前期課程終了.同年大阪大学大学院情報科学研究科博士後期課程進学. 2014年
日本学術振興会特別研究員(DC1).2016年
大阪大学大学院情報科学研究科博士後期課程修了.同年より日本学術振興会特別研究員(PD).頭部周辺を主とする電気刺激や
VRに関する研究に従事.博士(情報科学)
《講演者からのメッセージ》
さまざまなVR体験の臨場感と非常に深い関係にある前庭感覚は,皮膚上に設置した電極から電気刺激をすることで錯覚させる事ができます.この技術は前庭電気刺激と呼ばれ,従来は内耳の検査など医療目的に利用されていました.私たちのデモではHMDによる一人称視野提示と前庭電気刺激を組み合わせた,臨場感の高いVRシステムを体験する事ができます.