ディジタルゲームは「用意されたデータをロードし、プログラムによってユーザーに対しインタラクティブな世界を構築する」という方向へ発展して来ました。プロシージャル技術は、ゲーム・コンテンツやオブジェクトをプログラムによって自動生成し発展させる、ゲームデザインとゲーム製作過程に変革をもたらす技術です。これまで堅く固定されていたデータがプログラムによって動的に生成され変化する柔らかな対象となるとき、ディジタルゲームは一体どのように変化して行くでしょうか?本講演では、L-systemやフラクタル数学、プランニングなど具体的なアルゴリズムから、自然物・オブジェクト・AI思考を実際に生成し変化させる具体的な事例を提示し、長い歴史と蓄積を持つこの分野の学術的研究が、ゲーム空間と接して起こる様々な効果を観察することで、プロシージャルが可能にする新しいゲームデザインとゲーム開発過程について考察します。
講演者プロフィール
三宅 陽一郎
1975年、兵庫県生まれ。京都大学で数学を専攻、大阪大学で物理学(物理学修士)、東京大学工学系研究科博士課程(単位取得満期退学)。 2004 年、株式会社フロム・ソフトウエア入社。ゲームにおける本格的な人工知能技術の応用を目指す。 2005 年、クロムハウンズ(Xbox360, SEGA Corporation / FromNetworks, Inc. / FromSoftware, Inc.)の製作に、AIの設計として参加。 2006年、CEDEC2006 において「クロムハウンズにおける人工知能開発から見るゲームAIの展望 」を講演。2007年、AOGC2007 において「人工知能が拓くオンラインゲームの可能性」を講演。 2006 年~2007年にはIGDA日本、ゲームAI連続セミナー「ゲームAIを読み解く」全6回の講師を務める。KGC(Korea Game Conference)2007、CEDEC2007 招待講演。
デジタルコンテンツシンポジウム2008、「エージェント・アーキテクチャに基づくキャラクターAIの実装」の発表で船井賞受賞。デジタルコンテンツ協会「デジタルコンテンツ制作の先端技術応用に関する調査委員会」委員、DiGRA JAPAN研究委員、情報処理学会エンタテインメントコンピューティング研究会運営委員、人工知能学会会員。IGDA日本メンバー、SIG-BG(ボードゲーム専門部会)管理者。ボードゲームサークル「笹塚ゲームクラブ」代表。最近の論文「ディジタルゲームにおける人工知能技術の応用」(人工知能学会誌 Vol.23 No.1 2008/1)。ブログ「y_miyakeのゲームAI千夜一夜」(IGDA日本)。 CEDEC20008では、人工知能分野とプロシージャル分野(手続き型アルゴリズム、自動生成)をコーディネートします。 Enjoy CEDEC2008!
●受講者へのメッセージ この3年間、人工知能技術、プロシージャル技術(自動生成技術)によって、ゲーム開発者が楽しくゲームを開発を行うことが出来る開発・情報環境の構築を目指して努力して参りました。開発効率化の時代において、この2つの技術は、新しい混沌をゲーム開発にもたらすと同時に、閉塞するディジタルゲームのフィールドに新しくみずみずしい可能性をもたらすものでもあります。
20世紀に絵画が写実や肖像の分野から絵画自身の生命を持つ抽象画へと進んだように、ディジタルゲームは、この2つに代表される技術によって、それ自身が内から沸き起こる力動を持つことで命を持ち始める段階へと、僅かに、そしてゆっくりではありますが、移行しつつあります。2008年という年は、ディジタルゲームの歴史においては、目立たないとは言え、大きな開発の流れのターニングポイントとなる年でもあります。3Dゲーム空間を探求するのに実に10年以上の年月が必要であったように、人工知能技術、プロシージャル技術のフィールドも、ゲーム開発者にさらに今後10年の仕事を与えることでしょう。CEDEC2008においては、そのゲーム・フィールドのプレイヤーである開発者の皆様、この分野の潤沢な可能性をゲーム空間に導く皆様に、必要な情報とビジョンを提供することが必要であると考え、講演者の皆様のお力とと委員の皆様の多大な御協力によって、人工知能分野とプロシージャル分野(手続き型アルゴリズム、自動生成)の一連の講演が企画されています。
人工知能分野では、産業側としてAI Day 5講演、アカデミックとしては、CEDECラボ2講演、プロシージャル分野では、産業2講演、CEDECラボ1講演が準備されております。参加者の皆様が諸先生の講演を集中して聴講され、凝縮した情報から新しい発想を得られることを願います(もちろん、この分野についてはこれ以外にも講演がございます)。講演は多く技術が軸となっておりますが、ゲーム開発において、特に日本のゲーム開発においては、企画と技術者の合意によって、初めて新しい技術の導入が可能です。
是非、技術者と企画者の対話の出発点としてご活用頂ければと思います。CEDECラボ、AI Day は、(たとえ自分自身の手でなくても)来年以降も発展させて行きたいと考えております。是非、皆様のご参加とご意見のフィードバックによって育てて頂ければと思います。ゲーム開発には1年~3年以上の時間がかかります。CEDEC2008の成果が数年後のゲームタイトルとして結実し、皆様の手でディジタルゲームを進歩させられること願います。