ゲームにおいて、なぜことさらに「物語(ナラティブ)」が問題となるのか。そ れは、われわれ人間が生きる上で必要不可欠である「物語」の経験が、デジタル ゲームという新たなメディアを通して、大きく再構築されているからに他ならな い。哲学者ダニエル・デネットは、人間を動物から区別するのは「ストーリーを 語る自己」であり、そもそも人間の意識は「物語が生み出す結果」であると言っ た。すなわち、ゲームプレイヤーの「物語」の経験は、ゲームの外側の〈世界〉 ──すなわちわれわれの実人生そのもの──との関わりの中で、重層的に理解されな ければならない。そこで本セッションでは、吉田が「ゲーム的リアリズム」をめ ぐる近年の議論における「物語」の位置付けを解説し、井上がゲームデザインの 理論と実践の中での「物語」概念の展開を振り返る。さらにゲームデザイナー、 シナリオライターとして長いキャリアをもつ簗瀬を加えたディスカッションを行う。
(本セッションは、立命館大学ゲーム研究センター(RCGS)様からの推薦セッションになります)
講演者プロフィール
井上 明人
ゲーム研究者。およびゲーミフィケーションの推進者。 「ゲーム」という現象が総体としてどのように成りたっているのかが最大の関心 領域。節電ゲーム#denkimeterで、2012年CEDEC AWARDゲームデザイン部門 優秀 賞受賞。現在は、主に立命館で働いている。単著に『ゲーミフィケーション』 (NHK出版、2012年)
簗瀬 洋平
ゲームデザイン研究者。VR学会認定バーチャルリアリティ技 術者。ゲーム産業で15年間ゲームデザイナー/シナリオライターとして開発に携 わった後、研究職に転身。VRやARを使ったコンテンツの設計や、ゲームデザイン の現実世界での活用、錯覚を応用したHCIなどを中心に講演、発表を行っている。
吉田 寛
感性学者。ゲームプレイヤーの認知や想像力の様態に関心を 持つ。ゲーム研究の著作として『ゲーム化する世界』(共著、新曜社、2013 年)他。2011年の創設以来、立命館大学ゲーム研究センターの事務局長として、 アカデミックなゲーム研究の可能性を模索している。2014年にはカナダ、ドイ ツ、ブルガリア、フランスなどでゲーム研究に関する講演を行った。