テレビゲーム中になぜ前頭前野の活動は低下するのか?

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日時:
2010年08月31日(火)〜2010年09月02日(木)
形式: ポスター発表
受講スキル:
テレビゲーム中の脳活動に関する実証的かつ冷静な知見を求めている方の聴講を期待します。
受講者が得られるであろう知見:
テレビゲーム使用時における前頭前野の活動変化と、その活動変化を引き起こす要因について現時点で判明していること。
セッションの内容

近年になってテレビゲームは前頭前野の発達を阻害し、人格形成に悪影響を与えるという主張が広く知られるようになってきた。これはテレビゲーム中の脳活動を測定した結果に基づいた主張とされているが、実際はテレビゲーム中の脳活動に関する実証的なデータはほとんど存在していない。そもそもある作業中の脳活動から脳の発達への影響を言及すること自体にかなりの論理的飛躍があり、僅かなデータからの憶測が広まっているのが現状である。
発表者らは、テレビゲーム中の脳活動、とりわけ影響が懸念されている前頭前野の活動に関する実証的なデータを集め、その原因を追及することを目的とし、これまでに成人や児童を対象とした複数の脳活動計測実験を行ってきた。本発表では、それらの結果を概観し、ゲーム中の脳活動に関する正しい知識を聴講者に伝えることを目的としている。

我々の実験結果から、テレビゲーム中に前頭前野の活動が低下する理由として、以下の3つが導き出された。

1)視覚・運動処理を迅速に行う必要がある
2)自己・他者の心的状態に関する認知活動の必要がない
3)課題にある程度習熟している

これらの条件が揃った場合は、テレビゲームでなくても前頭前野の活動は安静時よりも低下するが、それは目の前の課題を円滑に遂行するために安静時の雑多な処理が停止、または抑制された結果と考えられる。何らかの課題を迅速かつ的確に処理しなければならないときは、課題に関与する脳部位のみを集中的に活性化させた方が処理の高速化やエネルギー消費の点で有利である。「低下」という言葉にはネガティブな印象があるが、ゲーム中の脳活動の低下は、決して「機能不全」を意味するものではなく、むしろ少ないエネルギーで高い処理能力を発揮するために備わった重要な脳機序を反映していると考えられる。実際に我々の実験により動作性IQが高い人ほどゲーム中に前頭前野の活動が低下しやすいことも判明しており、適切に無駄な脳活動を抑えることで、認知処理のパフォーマンスを向上させている可能性を示唆している(ゲームをするとIQが高くなるという因果関係を示したわけではない点に注意)。


講演資料

  • C10_P0301.pdf

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講演者プロフィール

松田 剛

松田 剛
所属 : 東京大学大学院
役職 : 総合文化研究科 特任研究員

東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。博士(学術)。現在、同研究科特任研究員。テレビゲーム、ヒューマノイドロボットといった新しいメディアが認知活動に及ぼす影響について、実験心理学的手法と認知神経科学的手法を用いて研究している。

開 一夫

開 一夫
所属 : 東京大学大学院
役職 : 総合文化研究科 教授

富山県生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了。博士(工学)。現在、東京大学大学院総合文化研究科教授。専門は赤ちゃん学、発達認知神経科学、機械学習。テレビやテレビゲームが子どもの認知発達過程に与える影響に関心がある。