1.背景と目的
近年,立体的に見える映像を出力することができる立体ディスプレイ技術に注目が集まっている.立体ディスプレイは映像を立体的に出力することができるため,従来の平面的な映像に加え,より臨場感のあるコンテンツが実現できる.しかし,立体ディスプレイによって表示される映像には実体がなく,接触感を伴うような直接的な操作はできない.もし立体映像に対して,触覚的なフィードバックを与えることができたなら,様々なコンテンツへの応用が可能になると考える.
本研究では,透明弾性体インタフェース[1]と,裸眼立体ディスプレイ[2]を用いることで,立体映像に直接触れて操作が行える新しいインタフェースの構築を目指す.これを実現するために,弾性体を通過する際に起こる屈折による映像の歪みの問題を解決する.
2.LCDを用いた映像の歪み補正
映像補正の基礎実験としてLCDを用いて単一視点に対する映像の補正を行った.
【補正手順】
始めに,画素位置の計測を行う.計測用パターンをLCDに表示し,ディスプレイの各画素に一意のIDを与える.この計測を弾性体設置前後で行う.次に,画素位置の対応付けを行う.得られた画素位置とIDから弾性体設置後に観測される画素がどの位置に表示されるべきかを求める.最後に画素位置を入れ替え,ユーザに歪みの無い映像の提示を行う.
弾性体を設置した際に起こる映像の歪みは観測視点によって異なる.従ってLCDを用いた場合には単一視点への補正しか行うことができない.
3.立体ディスプレイを用いた映像の歪み補正
弾性体を設置した際に起こる映像の歪みは観測視点によって異なる.従ってLCDを用いた場合には単一視点への補正しか行うことができない.そこで,LCD上での補正技術を拡張し,光線再生方式の立体ディスプレイを用いることで任意視点への映像の歪みを補正した.
使用した立体ディスプレイは,プロジェクタとプロジェクタ光の光線方向を制御するレンズシートから成る.このディスプレイでは通常,プロジェクタの画素位置とディスプレイ面から出る光線がどの方向に進むかを対応付けるために計測を行う.
【補正手順】
始めに,LCD上での場合と同様にディスプレイから射出される光線情報の計測を弾性体設置前後で行い,プロジェクタの各画素にIDを振り分けた.次に,計測した情報を元にディスプレイの映像が屈折した後に見えるディスプレイ表面の形状を推定する.この推定を行うことによって「どの位置からどの方向へ光線が進むか」を知ることができる.最後に,計測用カメラが存在しない方向へ進む光線の情報を補間した.
参考文献
[1] T. Sato, H. Mamiya, T. Tokui, H. Koike and K. Fukuchi, “PhotoelasticTouch: transparent rubbery interface using a LCD and photoelasticity”, ACM SIGGRAPH 2009 Emerging Technologies, 2009.
[2] M. Yamasaki, T. Koike, K. Utsugi, 重畳投影した複数の実像と偏向光学系を用いたライトフィールド高密度化技術, 3次元画像コンファレンス2008, pp.43-46, 2008.
講演者プロフィール
徳井 太郎
2008年 電気通信大学電気通信学部卒業
同年 電気通信大学大学院情報システム学研究科入学
山崎 眞見
小池 英樹
1991年東京大学大学院工学系研究科情報工学専攻博士課程修了.工学博士.
電気通信大学助手.助教授を経て,現在同大学教授.
1994~1996年,1997年UC Berkeley客員研究員.
2003年Sydney大学客員研究員.
2002~2005年内閣官房内閣事務官(情報セキュリティ).
HCIの研究に従事.特に情報視覚化,Vision-based HCI,
視覚化やモバイルを利用した情報セキュリティシステムに興味を持つ.