本発表はCEDEC09「ゲームAIにおける産学連携戦略の10年」に基づき、さらに発展させたものである。前回発表では北米の先進的な大学における10 年間の取り組みをレビューし、大学での研究と教育の両方制度が形成されたプロセスを明らかにした。それに対して本発表では英国/北欧/中国/シンガポールの事例を交え、国際比較を試みるとともにさらに最新動向を加える。
【米国編(CEDEC09からのフォロー)】
この10年間で北米の大学はコンピュータサイエンス・バーチャルリアリティー・メディア研究といった学問領域を再起動することで学としてのゲーム研究を構築してきた。たとえば業界団体ESAの2009年の調査では,全米各洲の254の大学でゲーム開発やゲームデザインを学んで学位や認定証を授与されるコースが存在する。ただしこの集計には短大や専門大学も含まれており、美大、音大、総合大学、職業訓練校、大学院といった多様な職能人材がゲーム教育をうけられるのが米国の強みでもある。先進的な拠点とみなされている大学でも、そうした他校との連携によってはじめて総合的なゲーム教育が可能になっている。そして2010年にはゲーム専攻トップ50の大学リストが全国紙 USA Today に掲載され、ゲーム研究の入学競争率の高さは社会的認知を得るに至った。
【世界の動向】
海外諸国ではこれにキャッチアップすべくインダストリアルパークへの誘致や米国大学との提携が進んでおり、ロンドン、コペンハーゲン、上海、シンガポールでゲーム研究教育の拠点形成が進んでおり、日本でも一部の大学が国際連携に着手している。また学歴社会を背景としてにゲーム開発者のキャリアアップのための社会人大学院も設置され、ゲーム産業と大学との関わりは強固なものになりつつある。
そこで本発表の後半では、大学での人材育成が当たり前になった将来について展望する。
【大学の役割】
ゲーム学が整備されるにつれ、ゲーム人材育成には基本的な教養や実践力が要求されるようになる。そして将来には、いま企業が取り組んでいることだけでなく、新しいチャレンジができる人材の育成が課題となる。そのためには各大学や教育機関が陳腐化しないビジョンを掲げ続ける必要がある。それは時として企業が現在求めていないビジョンでもありうる。たとえばゲーム専攻ランキング一位になったUSCのMichael Zydaなど、長期戦略のためのビジョンを立てた世界各地のリーダーに学ぶところは大きい。
【将来の評価サイクル】
一方、北米よりも先に大学教育改革とゲーム専攻設置を行ったイギリスでは、教育の質保証が問題となっている。国際競争に耐える人材を育てるために、大学教育の質をどのように評価し、保証するのか。どのような人材像にどこまで到達したのかという大学教育の評価が将来のゲーム人材においても問われるようになるだろう。日本では現在大学教育の評価を行う第三者機関は存在しないが、本発表では参考としてイギリスのアクレディテーション制度について紹介し、最後にゲーム分野における困難さと国際的な大学評価の可能性について述べる。
講演者プロフィール
山根 信二
東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。民間企業勤務後、岩手県立大学、国際大学GLOCOMなどを経て現職。
DiGRA2007(3rd Digital Games Research Conference 2007) Organizing Committee、IGDA日本(IGDA Japan chapter)アカデミック専門部会世話人をつとめる。日本デジタルゲーム学会、IEEE-CS、情報処理学会、FSIJ、CPSR会員。
CEDEC09にて「ゲームAIにおける産学連携戦略の10年」発表。ゲーム研究におけるコンピュータサイエンスの課題に関心を持つ。
《講師からのメッセージ》
ゲーム研究開発はこの10年間で大きく発展し、強力なリーダーシップのもとで世界各地に研究拠点が形成されました。今回は大学間のグローバルな競争の現状について報告し、今後を展望します。